Triumph Scrambler Mentenance
スクランブラーを新車から仕上げていく過程を追った連続企画です
また、御質問等ございましたら、お気軽にメール・お電話等でお問い合わせ下さい。
2011.5.24 連続企画「トライアンフ・スクランブラーを仕上げる」
第一回
[はじめに]
日本の道路事情において、常用域を楽しむ為に新車のスクランブラーを仕上げていく過程を数回に分けてお話することにしました。
私はバイクショップオーナーである以前に、一人のバイク好き、トライアンフ・ファンとして
ユーザーの気持ちを優先にした内容としていますので、実際のユーザーの皆さんやこれからユーザーになろうとしているみなさんに良い情報として届けば幸いです。
本編を始める前に、この企画にご賛同いただいたスクランブラーのオーナー様、
トライアンフを知り尽くし、高度な技術力を惜しみなく提供いただいたノースウイングJC高田社長はじめ、皆様に厚く御礼申し上げます。
[ストックの状態を知る]
ここで私の言うストックとはメーカーからディーラーに届けられ、とりあえずエンジンがかかって車両が動く状態を言います。
対象は企画のために「故意に」なにもしない状態でオーナー様に届けられました。
通常、皆さんがディーラーで購入されたら99%この状態で納車され、数年お乗りの方はそのままお使いになられています。
それを再現するためです。
そうではない残りの1%は、ノースウイングJCさんで購入されたお客様です。
持てるノウハウを駆使し可能な限り調律して新車納車されているのは、私の知る限り同社しかありません。
また、なぜスクランブラーなのか、ここにも先にお答えしときたいのですが
オフロードに長年親しんでいる者であれば、わざわざ270°クランクのエンジンに変更しての
この車体レイアウトなら、設計上ダートもそれなりに走れる本来の「スクランブラー」の意味にちゃんと合致しているのがわかります。
これを日本常用域仕様に仕上げると言う事は、ロングツーリングの際のあらゆる状況に対応できる
真に使いやすくライディングの楽しめる車両になるということで
ただのファッションバイクと思っている方がおられるなら、それはまちがっています。
おそらくインポーターの皆さんは特に勘違いされているでしょう。
では、各パートの印象をお話します。
@エンジン
動いていればメカニカルノイズはつき物ですが、妙に気になる打刻音が出ています。
タペット音ですがどれか一つのクリアランスが大きいのでしょう、
調整されたものならこの状況はありえないものです。
エンジンを始動した直後には音は大きく、オイルが回ると少し小さくなることが多いですが
これはそうではないらしく、音は消えず不快な微振動をともなっています。
走り出すと、良く出来たインジェクションをもってしても
期待される低速から中速域のスムーズでグッと押し出されるトルクは無く
5速ホールド40km/hからの加速を試みると、慎重なアクセルワークにもついてこれずギクシャクし
ギア比がロング過ぎる錯覚に陥って、エンジンのご機嫌を損ねないように
やってはいけないクラッチ操作に逃げるライディングを強いられます。
基本のアクセルワークでのトルクコントロールができないために
思うような方向に行くことすらままならず、270°が逆効果と思えるほどです。
Aポジション
またがった瞬間に違和感をがあります。
見た目はアップハンドルのオフよりのポジションで楽そうに見えますが
ハンドルは遠く外に開き、ステップの位置も悪い為に着座の状態でなぜか前傾になります。
170cm程度の私の身長では肩が上がりハンドルの押さえもきかず、腰が引けてなんとも乗りにくいのです。
言うまでも無くスタンディングはもっと最悪で、やり過ごそうと思ったギャップで後ろが跳ねたときは前転するかと思いました。
Bサスペンション
前回のボンネビルの試乗記でノーマルについてふれましたが、初期作動の悪さは相変わらずです。
ライダーとタイヤの接地面の間にサスペンションの存在は無く、ただの棒のよう。
細かい路面の凹凸でタイヤがゴムボールのように跳ねるのがダイレクトに伝わります。
また、スクランブラーならではの2本出しアップマフラーで重心位置が上にあるためか
終始つま先立ったようにフラフラと落ち着かず、思った方向に進めるのを難しくしています。
ツーリング中は様々なライン取りをしますが、何をするにもやりたくない妙なテクニックで逃げるのは疲れるばかりです。
タイヤもデュアルパーパス用トレールウイング。
ギャップが連続するところでアベレージを上げるとサスペンションが車体重量をそのまま載せてしまい
タイヤの柔らかさが裏目に出て剛性不足でよれる感じが余計に疲れを助長させます。
エンジンでのお話にも繋がりますが
常用域の5速ホールド低速〜中速の加速において、リアはリジットのように動かずにチェーンが暴れて
4速に落として引っ張ってから5速に・・を頻繁に行わなくてはなりません。
[輸入車に思う事]
トライアンフに限らずメジャーな他メーカーも含め、日本の事は一切考えられていません
それは皆さんがショールームで跨った時、試乗会の時にも正直感じるところではないでしょうか。
一昨年の大阪モーターサイクルショーに出かけた際、各海外メーカーを試乗をしてみたのですが
試乗会が評判を落とす事になっていないか心配になります。
某メーカーのレプリカモデルは、ギア比が全く合わずまともにスタートできず、
小さな試乗コースのUターンではエンストしかけてお客様が怖がってしまう場面に遭遇しました。
お客様は自分が下手だから・・のような照れ笑いでしたが、それは試乗用に持ってきたバイクが悪かったのです。
メーカー側とすれば、日本と言う小さな市場に合わせる事が出来ない事情があるのでしょうが
出来ないのであれば販売をゆだねられた各社日本法人が対策をすべきと考えるのですが・・。
メーカーから来たものをそのまま右から左でバイクショップへ・・・
ノースウイングJCさんは、新型が発売されるたびに社長自らテスト走行を繰り返し、
皆さんが不安なく乗れるようにするには何をすべきか、という作業に膨大な時間を費やしています。
(驚く無かれ、この作業も全てバイクショップ持ちなのです。)
こうした徹底したこだわりぶりは、これからの外車販売の方向性を示しています。
ビッグバイク、特に外車は趣味の乗り物。本来、人は趣味に妥協はしないものです。
特に私を含め業界にいるものは、そこを良く理解しないといけません。
買ってはみたものの乗りにくいので早々に手放した、最近よく聞く話です。
このままでは、衰退する一方です。
外車の販売台数が伸び悩む大きな原因の一つは、合わないものを押し付けすぎた、と私は思っています。
[次回へ]
さて、ネガティブな部分のみをクローズアップして書きましたが
見た目、トライアンフは乗る楽しみが感じられ、設計者は本当にバイクの楽しさを知っているに違いないと思うのです。
ただ、組み立て精度等にやや難があり考えられた性能が出ていないところもあります。
トライアンフの潜在能力を日本に合わせ徐々に発揮させる楽しさをお伝えしていきます
次回、お楽しみに。
第二回 2011. 6.10[初回点検エンジン調整を行う]
ノースウイングJCさんでは新車納車時、又は1000km走行後の初回点検時に必ず実施されるバルブクリアランス調整と吸気同調作業。
今回、オーナー様が約1000km走行され、メンテナンスで入庫したとの連絡をいただいて行ってきました。
[作業の前に]
なにをするのも完調なエンジンありき、とのお話をしましたが、
そこで重要になるのが全ての車両が完調な状態で納車されているのか、ということです。
ユーザーの立場では、それは新車時には全く問題なくメーカーから届けられている・・と疑う余地の無いところなのですが
実は国内外問わず少なからず個体差があるのです。
外車は個体差が大きく、国産は少ない、が業界では一般的な見解です。
これはメーカーの良し悪しで語られる部分ではなく、日本と海外の考え方の違いが大きな要因です。
国産は数をこなす為に、ユーザーに対して個体差をなくす必要がありました。よく言う「当たり外れ」を少なくする技術が発達したわけです。
反対に外車は昔から初期のセッティングからディーラーメカニックやユーザーにゆだねるところがあります。
私はこれを、「ユーザーの使用する状況が一人一人違う為、その人に合ったセッティング、メンテナンスはそれぞれで行う事。」 とメーカーが考えていると理解しています。
ここでバイクを扱う上でメンテナンスの重要性を私たちはもっと感じるべきなのです
日本製であってもバイクである以上、付き合い方は同じと言えます。
特に外車であれば輸入元やディーラーにその責がある、と私がお話しするのも理解していただけると思います。
[正しいバルブクリアランスの意味]
インジェクション、キャブレター問わず重要なのは、
全てのバルブがそれぞれの作用において、基準値内かつ等しく開いているかが重要です。
等しくなければ、設計上の充填効率を得られませんので普通の動力性能すら発揮されないのです。
簡単に申しますとメーカー公表値、性能曲線通りにするには絶対に大きな誤差は許されません。
[測定作業]
このエンジンは1気筒あたり、吸気側2個 排気側2個の4個で2気筒ですので合計8個のバルブがあります。
この車両で測定したところ基準値内は1個のみ、
あとの7個は正しいクリアランスにしなければならない事が判明、と言うことは8個全部がバラバラだったのです。
基準値にはそれぞれ許容範囲がありますが、各バルブ最小値(バルブが一番大きく開く値)からでは
誤差測定値が0.05mm〜0.11mmもあり、前回試乗時に感じた乗りにくさが裏付けられた結果となりました。
取材車両はインジェクションで最小値を目安にしますので
この誤差の大きさはノーマルのエンジン性能を大きく低下させる元凶になる訳です。
もしこういった調整をしたことが無い車両は誤差のあるまま使用しています。
[調整作業]
正しいクリアランスにする為に、先程の測定値から必要なシムの厚さを算出して交換します。
その作業後に吸入同調をとり、エンジンの充填バランスを整えます。
[試乗]
セルスイッチを押した直後に変化がわかります。
前回とは別物のように静かで安定したアイドリング、
レーシングしても軽く吹け上がり、その間不快な振動や車体をゆらすバランスの悪さはなくなっています。
走り出せば270°のパルス感がはっきりとライダーにわかりやすい特性に。
低速トルクも増大して、排気量のわりに細いトルクに手を焼いたりスタート時のエンストの不安もありません。
加速中の各ギアのつながりもよくスピードの乗りも抜群で(かなり速いですよ)充分な動力性能を感じる事ができます。
また、発生するトルクが安定したおかげでファイナルがショートになったように市街地での扱いやすさも良くなっています。
具体的には走行状況において選ぶギアが明確になったためにアクセルコントロールで姿勢制御でき、クラッチに逃げなくていいのです。
[第二回を終えて]
メンテナンスの重要性をおわかりいただけましたでしょうか。
肝心なのはオリジナルのパフォーマンスを正しく発揮させる事です。
これが無いまま何を変えたところで、余計にバランスを崩してしまいます。
販売されている車両は、マフラーはもちろん全てノーマルのままで充分な性能を持っています。
こういった作業をすれば、ご理解いただけ、また試乗で自分の車両との違いがわかるでしょう。
トライアンフは日本の道で乗る楽しみを感じさせる車種があります。
その中の1台であるスクランブラー、これを選択される方は直感的にその潜在能力を感じれるライディング・スキルをお持ちと思います。
メンテナンスをすれば感じたとおりのキャラクターを持つ車両になる事が証明されました。
まだエンジンだけでもこの乗りやすさですので、ここからさらに作業をを進めていくのがとても楽しみです。
様々な道を走る車両とするためにテーマである「最高の妥協点」を突き詰める作業はまだまだ続きます。
文字をクリックするとノースウイングJCさんのメンテナンスページをご覧いただけます
下記のサイトでメンテナンスに対する正しい知識を得る為に、ぜひ参考にしてください。
ノースウイングJCの考えるメンテナンス
では次回をお楽しみに。
第三回 2011. 7. 9[足まわり、ポジションの変更]
[試乗の前に]
一貫したテーマである常用域での気持ち良さ、いつでも・いつまでも乗っていたいバイクをめざして、今回の変更は足まわりとポジションです。
足回りは、機能的であり見た目の良さもアップする、ノースウイングJCさんオリジナルのブラックアルマイトされたアルミリムと
同じくJCさんオリジナルのプリロードアジャスター付WPフロントフォークスプリング、ステアリングダンパーの装着は
オリジナルのポテンシャルを大きくアップさせるのに素晴らしい働きをしています。
ポジション変更はオリジナルハンドル、ステップでライダーは「ちょうど良い所にいるありがたさ」を感じる事が出来ます。
では各部をご説明します
[アルミリム、大幅に軽量化されたバネ下重量の恩恵]
ノーマルホイールを外して手に持ってみると、驚くほどに重いのです。
それはそれでスチールリムの良さを生かす事が出来れば乗り味として楽しめるのですが
アルミリムに変更されたテスト車両に乗ってしまうと、これ以上無いと思える変貌ぶり。
跨る前にハンドルを持って直立させたとたんに軽さを感じます。
スタートするとトルクが増したかのような押し出され方・・・!
前回のエンジン調整により、乗りやすくなっているのですが、
さらにチューニングしたかのようなトルクアップ感、
加速時にスピードの乗りが倍増するなど、各ギアの守備範囲が間違いなく広がっているのです。
ハンドリングにおいては大幅な軽量化によるネガティブな部分は微塵も無く、
後述しますがオリジナルWPの絶妙なセッティングも相まって、あくまでも軽快でニュートラル。
アルミのしなやかさがギャップの吸収にも表れて、ライダーを驚かせることなくタイヤグリップを的確に教えてくれます。
そして、
ミーハーですが・・・見た感じ、正直カッコいいです。ブラックエンジンとフレーム周辺のブラックとよく調和して
EXパイプとサイレンサーのメッキのコントラストが強調され、引き締まった感じがとても良いです。
[WPフォークスプリング・アルミリム専用セッティングとステアリングダンパー]
以前、同様な感想をボンネビルでしていますが、好印象は変わらず
プログレッシブの強弱ポイントが絶妙で速度域が変化するたびに、ライダーがこうあってほしいと思うサスペンションの動きをします。
ギャップを何もかも打ち消すのではなく日常的な速度変化での路面状況の伝え方が一定で柔らか、人間の五感にぴったり合っていると言えます。
ステアリングダンパーは通常その存在を感じさせず、いざと言うときにしっかりと仕事をしてくれます。
故意にバンク中、連続したギャップを通過するとそれとなく機能しているところが不自然さが無く良いところです。
[JCさんオリジナルハンドルバー、オリジナルステップによるポジション変更]
ノーマルハンドルは一番最初に乗り難さを思わせる部分です。
今回変更したのはJCさんオリジナルハンドルバーは3タイプある中で、
グリップ部の絞り角が一番手前になっているもの。(私のお気に入りでもあります。)
加えて、高くライダー側に寄ったハンドルは、グリップを自然に握れる位置にしてくれます。
ステップは前方に移動しペダルの操作しやすくなるわけですが
特にペダル前後方向、可動ピンセンターからの車体外側に向かっての角度が良く、
足を乗せると自然なニーグリップ位置に膝があることです。
バイクコントロールにおいて、ニーグリップとステップの踏み込みの強弱が重要である事はご存知の通りですが
積極的にコントロールする時、ハンドルを含めライダーの動きの自由度を大きくしてくれる最良のパーツです。
また、着座からスタンディングのやりやすいこと、林道ツーリングも可能なのがわかります。
[試乗を終えて]
今回の変更で走行中のポジションに無理が無くなり、バイクの重心位置が明確に。
そしてアルミリム、サスペンションとの相乗効果で、
ツーリングや日常走行で不意に現れる「バイクにとって不利な状況」に
即座に対応できる、安全性の高さが飛躍的に向上しています。
ベテランにとっては危険予知も可能な安全性能を得た事も感じられ、余裕を持って楽しめる1台となりました。
また、以前試乗させていただいたボンネビルとスクランブラーとの違いは、
ノーマルで感じられるスクランブラーという個体独特の重心位置の高さがもたらす不安定さですが
この作業で安定した車体によって全く感じられない事に驚きます。
[ここまで仕上がった新車購入のススメ]
ベテランはもちろん、初心者の方、全てのスクランブラー購入予定の方には
ここまでを仕上げた新車に是非乗っていただきたいですね。
余談ですが・・・
妙なプライドとため込んだお金で買ってしまった 手に負えなくて楽しくも無いブランドバイク
結局乗るのが嫌になりガレージの飾りに。動いても年に1回・・・。
私世代の返咲きライダーに多く見られる状況です。
バイクの楽しさは一般公道での速度域でどれだけ楽しいかにあります。
毎日乗っていたい、事あるごとに自分のバイクで出かけたい、これが大切と思います。
見栄を捨てて素直になれるライダーのみなさん、
このスクランブラーは目から鱗の1台ですよ。
次回お楽しみに。
番外編 2011. 7.31[良いもの見つけてテスト中!!]
普段から気になっていたスクランブラーのフロントフェンダーの短さ・・・・延長フェンダーキット見つけました
良いものを見つけました。只今JCさんにてテスト中のグッズは画像をご覧ください。
どれくらい後方に伸びるか見てください。
JCさんにテストしていただいたところ効果絶大でエンジンへの泥ハネが激減とのことです。
しかも専用ですのでバッチリ隙間無く装着可能です。
ただ装着方法についてはメーカーの指示では不十分との指摘をいただき、一工夫しています。
もうすぐ発売です。